▼防毒マスクの除毒方法(原理)
吸収缶でガスを除毒する方法は、ガスの種類によって異なり、以下に大別されます。
1.物理吸着(主に有機ガス用など)
環境空気中の有毒なガスを活性炭などで吸着して、呼吸に適した空気のみを通す方法です。
これは気体の分子・原子が、物理的引力によって吸着されることです。活性炭の粒子には、非
常に多くの細かい穴(細孔)があるため、たいへん大きな表面積(1000〜1500m2/g)となり
ます。この表面積が大きいと吸着できるガスの量も多くなります。また、活性炭には比較的多
くのガス吸着に適していることから、有機ガス用の吸収缶を始めとして、防毒マスクの吸収缶
の基材として多く使用されています。
2.化学吸着(ハロゲンガス、酸性ガス、アンモニア、亜硫酸ガスなど無機ガス用)
有毒ガスを金属酸化物、アルカリ剤などによって中和し、吸着させる方法です。吸着剤と
吸着物質の化学変化によるもので、化学反応に類似の現象といえます。酸性ガス用吸収缶で
は、アルカリ剤の入った吸収缶によって酸性ガスを中和しています。
3.触媒反応(一酸化炭素用)
有害ガスを酸化などによって毒性のほとんどないものに無害化したり、または吸着されや
すい物質に変換する方法です。一酸化炭素用吸収缶を例にすると、一酸化炭素を吸収剤であ
るホプカライトの触媒作用により、毒性の低い二酸化炭素に換え無害化しています。
いずれも、吸収缶の種類ごとに、対応可能なガスが定まっており、このガス以外は効果が
ないので注意が必要です。
▼除毒能力に及ぼす要因
吸収缶は、吸収剤がガスにより飽和してしまうと、吸収されなくなり、有毒ガスが除去され
ずそのまま漏れてしまいます。この状態を破過、それまでの時間を破過時間といい、吸収缶や
ガスの種類によって異なります。破過時間に影響を及ぼす要因をいくつか挙げます。
●ガス濃度
一般にガスの濃度が高くなるほど破過までの時間は短くなります。吸収缶に吸着できるガ
スの量には限度がありますので使用時間とガス濃度の関係は、ほぼ反比例の傾向にあります。
●ガスの種類
同じ濃度のガスでも、ガスの種類によっては吸着されやすい(破過時間が長い)物質、さ
れにくい(短い)物質があります。これは、主にガスの沸点、分子量、蒸気圧の違いによる
ものと考えられています。
主な傾向として分子量が大きいものほど吸着しやすい、沸点が高いものほど吸着しやすい、
蒸気圧が低いものほど吸着しやすいとされています。
●湿度の影響
有機ガス用吸収缶など吸着剤に活性炭を使用したものは、水の分子が活性炭に吸着されま
すので、高湿度環境下では破過時間が短くなる傾向があります。一酸化炭素吸収缶も触媒の
反応が十分に行われず短くなります。
これに対し化学吸着を行う吸収缶の場合、化学反応にある程度の水分が必要なため、湿度
の高い環境でもほとんど破過時間に影響を与えません。
●温度による影響
有機ガス用吸収缶は物理的に活性炭内の小さな穴にガスの分子を吸着させます。このため、
高温環境下では、分子の動きが活発化することで吸着されにくくなり、破過時間が短くなる
傾向にあります。逆に、化学吸着や触媒反応を使用した吸収剤では、化学反応を促進させる
ため、破過時間が長くなる傾向にあります。
●例外的な一酸化炭素用吸収缶
一酸化炭素用吸収缶は、今までの例とは全く異なります。触媒作用で一酸化炭素を二酸化
炭素に変えますが、触媒は高濃度でないと十分に反応を起こしません。このため、濃度が低
いと逆に破過時間が短くなってしまいます。また、反応を起こすと熱を発しますが、有効時
間内でも一度使用を中断すると冷やされたときに酸化剤の表面に水分が付着し二度と反応し
ません。このため一度しか使用できません。緊急時に使用される例がありますが、全くの無
臭のガスですので長時間作業時や低濃度時は危険です。送気マスクや空気呼吸器の使用をお
勧めします。